
上原美樹。


彼《か》の地へと いま 旅立たん 君の手と たましいに ただ すがりつく 我

鬼籍へと 向かう彼方に なたねつゆ わが恋とわに 置き去りのまま

電線に 絡めとられる 満月を あやとりでとる うさぎよ 跳ねよ

父となり 夫となった 恋人は もとは息子で だれかの子ども

まだみるい 柊の葉の きみどりを 滑るる光 触れて行くなん

暮れ染むる 空にたなびく 叢雲の 影となりゆく 山の稜線

赤き血を 流す 吾が子は 赤き血を 流させる 吾子 やめよ いくさを 誰も望まぬ 戦を 止めよ

目の前に 今 いる ひとも わたくしも 母の胎《はら》から うまれた いのち
